「不動産相続は、難しい手続きが多そうでなかなか理解できない」
「相続人同士でトラブルが起きないか不安」
このような悩みはありませんか?不動産相続をする際には、複雑な手続きをイメージしてしまい、何から始めれば良いのかわからないですよね。
そこで本記事では、不動産相続の方法や活用すべき節税制度などを解説します。
不動産相続のステップを具体的に説明するため、実際に相続する際のイメージがつきやすくなるでしょう。
不動産相続について理解して、スムーズに手続きを進めていきましょう。
不動産を相続する6つの流れを解説します。
不動産の相続が発生した際には、遺言書の内容を確認しましょう。なぜなら、基本的に遺言書に記載されている内容に従って相続が行われるからです。
後述する遺産分割協議後に遺言書が見つかっても、遺言書の内容が優先されます。
遺言書には3種類あるため、それぞれの特徴を理解しておきましょう。
自筆証書遺言 | 公正証書遺言 | 秘密証書遺言 | |
---|---|---|---|
作成方法 | 被相続人が遺言書を作成、押印 | 被相続人と証人が公証役場に行き、被相続人が遺言内容を伝え、交渉人が作成 | 遺言書に署名と押印、封緘してから、公証役場で証明 |
保管方法 | 被相続人が保管 | 公証役場で保管 | 被相続人が保管 |
自筆証書遺言とは、被相続人(財産を遺して亡くなった方)が書いた遺言書です。遺言書保管制度(法務局が遺言書の原本を保管してくれる制度)により、保管されている場合があります。その際には、最寄りの法務局に閲覧を請求して、データで遺言書を確認できます。
公正証書遺言とは、遺言者から遺言内容を伝えてもらい、公証人が公正証書(第三者である公証人が頼まれて作成する公文書)という形で作成する遺言書です。公正証書遺言の控えが保管されているかを確認してみましょう。見つからない場合は、公証役場に原本が保管されており、申請すると確認できます。
秘 密証書遺言とは、遺言書の内容を相続人(亡くなられた方が遺した財産を受け継ぐ方)に知らせずに作成する遺言書です。相続時に家庭裁判所で検証を受ける必要があります。検証には1か月程の時間がかかるため、すぐに遺言の執行ができない点に注意しましょう。
遺言書の内容によって手続きが変わるため、相続の際には、遺言書の種類を確認しておきましょう。
遺言書がない場合には、相続人が財産を相続します。
相続人の調査をする際には、戸籍謄本を取得し「相続人が誰なのか」を確認してください。基本的には、配偶者や子ども、両親や祖父母などが相続人です。しかし、面識のない方が相続人になる可能性もあるため、確認漏れがないように注意しましょう。
遺産分割協議後に相続人が発覚した場合、やり直しになるため、しっかりと調べておく必要があります。
次に、相続不動産の特定が求められます。
市区町村から届く固定資産税の納税通知書を確認すると相続財産の有無がわかります。
この際の注意点として、不動産の相続財産があっても、借金や税金の未払いなどの債務が多ければ相続放棄も可能です。
相続放棄を行う際には、相続の開始を知った時から、3ヶ月以内に家庭裁判所に書類を提出して放棄手続きを行いましょう。
遺産分割協議とは、相続人全員で遺産の分割について話し合い、分け方を決定する協議です。民法898条によると、不動産といった亡くなった被相続人の遺産は、相続人全員の共有になります。
そのまま不動産を共有する方法もありますが、活用しにくいデメリットがあります。
「売却にするか」「賃貸にするか」は、共有者間で意見が対立するため、遺産を円滑に活用できないリスクがあるのです。遺産分割協議では、共有ではなく遺産をどのように活用するのかを話し合いましょう。
遺産分割協議で同意を得られたら、全員の署名をもらい遺産分割協議書を作成します。
仮に、遺産分割協議を経ても合意されない場合は、家庭裁判所にて遺産分割調停を申し立てます。
それでも合意がされない場合は、調停不成立となり、裁判官が財産に関する権利関係を考慮して、遺産の分割方法を決定します。
遺産分割協議が終わり、不動産の相続人が決まったら、相続登記の手続きとして名義変更を行います。名義変更とは、不動産の所有権が被相続人から相続人へと移ったことを示すための手続きです。
名義変更にかかる費用は、以下のとおりです。
書類取得 | 数千円~1万円程 |
登録免許税 | 評価額の0.4% |
司法書士への報酬 | 10万円前後 |
上記のように、名義変更するまでにまとまったお金がかかります。不動産の評価額や司法書士に支払う報酬なども考慮して、準備しておきましょう。
また現在、相続時の名義変更は、法律上義務化されていません。しかし、2024年4月1日より名義変更が義務化 され、怠ると10万円以下の罰金が課せられます。早めの名義変更を行いましょう。
不動産を相続する際には、相続税の申告をしなければなりません。相続税の申告と納付期限 は、相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内です。
相続税の申告・納付ができなければ、延滞税がかかるため注意しましょう。
不動相続には、3つの分割方法があります。
代償分割とは、特定の相続人だけが不動産を相続して、その代わりにほかの相続人に対して相続分の金銭を渡す方法です。
不動産相続においては、土地や家よりも現金が欲しいと思う方も多く、複数人で不動産を共有すると、活用しづらい点から有効な方法といえます。
また、財産となる建物に住んでいる相続人がそのまま住み続けるために、代償分割を用いるケースもあります。
デメリットとして、代償金を用意できなければ代償分割が行えません。手元に現金がない場合は、不動産担保ローンを使って現金を用意したり、お金を用意するまで待ってもらったりする方法が挙げられるでしょう。
換価分割とは、不動産を売却して、その代金を相続人で分割する方法です。相続人全員が不動産の相続を望んでいない場合に有効です。
換価分割は、不動産を売却すると相続税をすぐに支払えるメリットがあります。
注意点として、均等に不動産を分割できますが、不動産が売れなかったり売却金額が低かったりするデメリットがあります。相続人全員に所得税や住民税がかかることもあるでしょう。
換価分割をする際には、売却できない可能性やコストがかかる点を視野にいれて話し合ってください。
現物分割とは、不動産をそのまま分割して相続する方法です。土地を人数分で分割する方法が一般的です。
しかし、以下の場合には現物分割が難しくなります。
● 土地の面積が狭く分割が難しい
● 価値が低下してしまう
● 建物がある
現物分割により、土地の価格が変動しないかをあらかじめ調べておきましょう。
不動産相続に必要な書類について解説します。
不動産の相続発生時に、相続人が生きている事実を証明するために、相続人全員の戸籍謄本が必要です。
そのほか、被相続人の死亡を証明するためにも、戸籍謄本(個人の身分事項が記載された「戸籍簿」の写し)が必要です。被相続人の住所と登記されている住所が違う場合は、住民 票の除票や戸籍謄本の除附票によって移転の有無を証明する必要があります。
戸籍謄本は、本籍地のある市役所での取得が可能です。郵送での取得も可能であり、手続きを進めるためにも早めの対応が求められます。
不動産相続の際には、被相続人の住の除票と相続人の住民票が必要です。
被相続人の住民票の除票、登記簿上の被相続人と戸籍上の被相続人が同一人物である事実を証明するために利用します。
相続人の場合は、新たに不動産の名義人となる相続人のみが住民票を求められます。戸籍謄本でも住民票の代わりになるため、取得しやすい書類を提出しましょう。
遺産分割協議によって相続の分割内容が決まった際には、証明するための遺産分割協議書が求められます。
遺産分割協議書は、以下のような際に必要です。。
● 相続税の申告書の提出
● 不動産の相続登記
● 金融機関での手続き
さまざまな手続きで求められますので、あらかじめ作成しておきましょう。
遺産分割協議書には、決まった様式はありません。法務局が遺産分割協議書のサンプルの書式を用意しておりますので、参考にしてください。
遺産分割協議書には、相続人全員が署名をして実印を押します。その際に、印鑑証明書(登録された印鑑が本物であることを証明する書類)もそろえなければなりません。
基本的には、相続人全員分の印鑑証明書が必要です。印鑑証明書には期限がないので、取得から半年以上経っている場合でも手続きに利用できます。
住所地の市区町村にて、取得できます。
相続関係説明図とは、相続関係をわかりやすく説明するために整理した図面です。
相続関係説明図を提出すると、戸籍謄本の原本を返却してもらえます。返却が必要な際には作成しておきましょう。
法定相続情報一覧図とは、法務局が発行する相続関係をわかりやすく整理した公的な文書です。
法定相続情報一覧図を提出すると、相続人・被相続人における以下の書類提出が省略できます。
● 戸籍謄本
● 除籍謄本
● 住民票
法定相続情報⼀覧図は、法務局への申請で取得できます。忙しい方は、法定代理人や法律上の親族、弁護士や司法書士であれば、相続人の代理として手続きが可能です。
収入印紙は、不動産の相続に係る税金の納付で利用します。
郵便局や法務局で入手できるため、あらかじめ用意しておきましょう。
登録免許税印紙納付台紙は、収入印紙を貼り付けるために必要な用紙です。法務局の窓口で、入手可能です。登録免許税印紙納付台紙の規定はなく、A4のコピー用紙でも問題ありません。
固定資産税納税通知書は、固定資産税の支払いを通知する書類です。
地方税法第9条によると、年度内で不動産の所有者が亡くなった際には、納税義務が相続人に引き継がれると記載されています。
相続人は固定資産税を払わなければ、延滞金が課せられるため、未払いがないようにしましょう。
また、固定資産税納税通知書を見ると、以下の点が分かります。
● 固定資産税評価額(不動産にかかる税金の基準になる評価額)
● 不動産の所在地
定資産税納税通知書には不動産の評価額が記載されています。
固定資産税納税通知書で、「どの市区町村にいくつ不動産を所有しているのか」を把握しましょう。
さらに、翌年度以降の固定資産税の納税では、不動産の所有者になった方が、現在の所有者である事実を申告する必要があります。
その際には以下の書類が必要です。
● 固定資産間所有者申告書
● 対象者の申請書の本人確認書類の写し
不動産の所有者が変わった際には、申告を忘れないようにしましょう。
相続放棄申述書とは、相続放棄する際に家庭裁判所に提出する書類です。相続を放棄したい場合「相続の開始があると知ったとき」から3カ月以内 に行わなければなりません。
相続放棄申述書を提出しないと、相続承認したと自動的にみなされるので注意しましょう。
相続放棄申述書は、法務局の「相続の放棄の申述書(成人)」によりダウンロードできますので、利用してください。
本では、不動産相続にかかる税金を解説します。
相続税とは、被相続人の遺産を受け継いだ相続人に課せられる税金であり、現金での納税が求められます。
ただし、相続税は高額になることも多く、不動産を相続した際には現金での納付が困難になる場合があります。
そのため、後述する基礎控除を利用した節税対策を行いましょう。
まずは、相続税の対象になる金額を計算する必要があります。
● 相続税課税総額=相続財産の総額-(非課税財産+債務+葬式費用)
● 課税遺産総額=相続税の課税価格-基礎控除額
上記の計算式のように相続税には基礎控除があり、最低3,600万円までは税金がかかりません。基礎控除(相続遺産のうち一定の金額までは相続税がかからない控除)を引いた額を納める必要があります。
そして、各相続人が納める相続税額は、以下の計算式により算出できます。
● 各相続人の相続税額=相続税の総額×(各相続人が相続する課税価格÷課税価格の合計額)-税額控除
このように、相続税の計算式を求め納付を行いましょう。
登録免許税とは、不動産や会社、航空機などの資格の所在を明確にする届け出の際に、納付が必要な税金です。
基本的には納付が必須ですが、一定の条件を満たせば免税されます。
● 相続登記の前に相続人が亡くなった場合
● 相続する土地の価格が100万円以下の場合
法務局によると、登録免許税の免税期間は令和7年3月31日までです。相続した不動産が、登録免許税の対象になるか確認しておきましょう。
登録免許税の税率の計算は、不動産の固定資産税評価額の0.4% です。
例えば、固定資産税評価額が5,000万円の土地を登記する場合には、登録免許税は以下のようになります。
● 5000万円× 0.4% =20万円
固定資産税評価額が決まったら、登録免許税を支払うための現金を準備しておきましょう。
不動産を相続する場合には、以下5点の税金対策が挙げられます。
不動産を相続する際には、基礎控除を利用すると税金を大幅に抑えられます。
相続税は、以下の計算式をもとに算出されます。
● 基礎控除額= 3,000万円+600万円×法定相続人の数
例えば、夫が亡くなり相続人が妻と3人の子ども、合計4人の場合、基礎控除は以下のようになります。
● 3,000万円+ 600万円× 4人= 5,400万円
このように基礎控除の活用により、税金を抑えられます。法定相続人が何人いるのかを把握して、控除額を計算しましょう。
小規模宅地等の特例とは、以下の条件を満たした場合に、土地の相続税評価額を最大8割 も下げられる制度です。
事業で使われていた土地とは、被相続人が不動産業や駐車場を運営していた場合を指します。
小規模宅地等の特例の事例を見てみましょう。
夫が亡くなり、妻と子ども3人の合計4人が相続人となり、夫が所有していた不動産が相続財産として相続税が発生する場合を仮定します。
この際、不動産の固定資産税評価額は、6,000万円でした。相続税の基礎控除額は「3,000万円+600万円× 4人」なので、5400万円です。
固定資産税評価額である6,000万円から、基礎控除額の5400万円を引くと、相続税は600万円です。
一方で、小規模宅地等の特例を使った場合は、固定資産税評価額が最大80%下がり、1,200万円になりました。それにより、5,400万円の基礎控除額よりも下回り、相続税を支払う必要がなくなります。
このように、小規模住宅等の特例を利用すると、相続税の支払いが不要になることがあります。条件に合うか確認しておきましょう。
配偶者には相続税の優遇制度があり、1億6,000万円 以下であれば課税されません。そのため、不動産を配偶者に相続してもらう方法もあるでしょう。
デメリットとして、配偶者が亡くなった際には、二次相続により子どもに発生する相続税が高額になる可能性があります。二次相続によって、法定相続人が減ったり配偶者控除が適用できなかったりするため、相続税が高くなる傾向にあるのです。
このことから、現在の相続税だけでなく二次相続の相続税も考慮して、税負担が少なくなる方法を検討してみましょう。
贈与税控除とは、被相続人から生前にもらった贈与にかかる税金と相続税を二重に払わなくて済むように相続税から差し引く制度です。
相続税を計算する際には、贈与財産と相続財産が二重で計算される可能性があるため、贈与税額控除を利用しましょう。
不動産の評価額を下げることを目的として、アパートやマンション経営をする方法も勧められます。アパートやマンションを他人に貸している場合、自由に売却できないため、土地や建物の評価額が低くなります。
相続税を下げたい場合には、アパートやマンションの経営により、評価額を下げましょう。
不動産相続には、さまざまな注意点があります。ここでは、不動産相続における注意点を4つ解説します。
相続人同士でトラブルが発生する場合があるため、不動産の共有は避けましょう。
具体的には、共有名義となっている不動産は、共有者1人の判断のみでリフォームを行えません。修繕を行いたくても、共有者の共有持分の過半数から合意を得る必要があります。
さらに、共有名義で不動産を持ち続けていると、固定資 産税や維持管理費の支払いを拒否できません。1人の共有者が立て替えると、求償権(金銭の返還を求める権利)に基づき、過去10年に渡り、費用を請求される可能性があります。
このように、不動産を相続人全員で共有すると、さまざまなデメリットが生じます。このことから「単独名義での不動産所有にするか」「不動産を売却して現金化する」方法で相続しましょう。
不動産を相続したときには、名義変更が必要です。
不動産の名義が被相続人のままであれば、相続人が売却したり、不動産を担保にお金を借りたりできません。
そのほか、家のリフォームやアパートやマンション経営を行う際にも、名義変更が必要になる場合があります。
特定の相続人が不動産を相続する場合は、そのほかの相続人に対して代償金を支払わなければなりません。1人が財産を相続するため、平等にする必要があるからです。
この場合、問題となるのが代償金を支払えなくなる点です。あらかじめ、代償金を用意しておくか、不動産担保ローンを利用して現金の支払いに備えましょう。
不動産を売却する際には、共有者全員の同意が必要です。
この際の注意点として「売却しても良いか」「価格はこれで良いのか」を話し合う必要があります。
売却する際には、不動産の評価額が想定よりも低い金額での売却になる可能性があります。最低売却価格を全員で話し合う対応が求められるでしょう。
また、購入者から値引き交渉があった際には、対応するかどうかも決めておく必要があります。
不動産相続の際には、以下の2つの制度が役立ちます。
不動産登記制度とは、不動産の面積表や所有者の情報を法務局で管理して、登記簿事項証明書(登記記録の内容を記載した書類)によって誰でも見られる制度です。不動産の権利関係や取引の履歴が確認できるため、相続の際に役立つでしょう。
例えば、不動産を相続した場合、登記事項証明書を確認すると、被相続人が「第三者と不動産の取引をしていないか」「不動産を借金の担保にしていないか」などの情報を得られます。
相続土地国庫帰属制度とは、土地の所有権を国に帰属させる制度です。
相続する際に、費用や労力がかかり管理が難しい土地の場合に利用できます。
一定の負担金を国に納付した上で、土地の所有権を国に帰属させます。
不動産を相続すると、相続税は現金で用意しなければなりません。数千万円の不動産を相続した場合には、相続税の支払いが高額になる場合もあるでしょう。その際には、不動産担保ローンの利用が適しています。
例を挙げると、代償分割を選んだ際に不動産担保ローンを利用できます。特定の相続人が不動産を相続して、不動産担保ローンで借入し代償金の支払いが可能です。
不動産担保ローンでは高額な融資も可能なため、相続税が高くなった際にも活用できるのがメリットです。
不動産を相続した際には、遺言書の確認や相続財産の特定などの対応が求められます。また、被相続人や相続人の戸籍謄本や、遺産分割協議書などの書類を用意する必要があります。
相続時には、相続人全員で話し合い、代償分割や換価分割などの分割方法を決めるようにしましょう。
相続税は高額になることが多いため、基礎控除や小規模住宅地等の特例などを利用して、節税対策も検討してください。